ヤマサは2022年1月、DX化の取り組みの一貫として自社開発した「原石判別AIシステム並びに骨材生産管理用システム(略称:G-MOS)」で特許を取得しました。
今回はこのAIシステムの概要と経緯、そして展望についてお伝えできればと思います。
「原石判別AIシステム並びに骨材生産管理用システム(略称:G-MOS)」を一言でいうと、骨材製造における原石サイズのAI判別を軸に、原石採取・製造・流通、全ての工程のデジタル化の実現を目指すシステムです。
骨材製造における工程全体の最適化を見据えており、主な機能は以下の通りです。
①原石採取箇所や採取業務の最適化
②物流における原石積載状態の最適化
③破砕効率の安定化、並びに破砕機の安定稼働
④破砕機へのダメージの安定化
⑤工程全体の負荷軽減に伴う二酸化炭素の排出量の軽減とエネルギーコストの削減
①原石採取箇所や採取業務の最適化
原石採取現場では、原石の採取量のみが重視され、骨材製造における効率性が考慮されるケースは少ないのではないかと思います。
ヤマサのG-MOSでは原石採取箇所ごとの原石の状態(サイズ)をAIで判別します。
投入された原石の状態をリアルタイムでAIが判別し、事務所・原石採取場でチェックすることが可能です。結果にあわせ骨材製造に適した原石採取箇所を調整し、原石採取段階からの最適化を図ります。
また、工区ごとに原石の状態を記録することで、骨材製造に適した工区の予測に活用することが可能となります。
②物流における原石積載状態の最適化
同じ量を積載しても、積載された原石の状態によって生産性にバラつきがでます。
積載単位で考えると、生産性の良い積載と悪い積載があるはず。安定的な稼働ができる積載もあれば、破砕機の負荷を高めるような積載もありますよね。
G-MOSなら投入された原石の状態をリアルタイムでAI判別し、大きな原石に偏った採取を抑制できます。
原石採取を数値化し、生産効率の高い原石を多く積載することで、物流における効率向上を図ることが可能です。
③破砕効率の安定化、並びに破砕機の安定稼働
大きい原石ばかり投入されて、破砕工程の1サイクルあたりの製造量が落ちたり…、それどころか大きすぎる原石で大割の破砕機が停止したり、投入口が詰まってしまったり…。作業の効率化のためにはこうした事態は避けたいもの。
G-MOSはトラックやカーゴから破砕機に原石を投入する際に、投入時の原石サイズをAIで判別。サイズの大きな原石が一定割合存在する場合はシステムがアラートを発信してくれるので、投入原石の状態を調整でき、破砕効率の安定化と破砕機自体の安定稼働を実現します。
④破砕機へのダメージの安定
瞬間風速で大きな原石ばかり投入されて破砕機の負荷が高まったり、詰まって破砕機が故障したり…。修繕費や故障による設備費には頭を悩ませていました。
G-MOSは破砕機に投入される原石の状況をAIで判別し、負荷が高まる場合はアラートを発信。高負荷での原石投入を抑制することで、破砕機のダメージの安定化を図り、設備の寿命を伸長させることが可能です。
⑤工程全体の負荷軽減に伴う二酸化炭素の排出量の軽減とエネルギーコストの削減
終わりの見えない原油高で輸送コストが高まる一方…。とはいえ、原石を輸送するコストは絶対に必要で、弊社でも取り組むべき経営課題の一つでした。
原石の採取・積載段階での最適化をはかることは、原石の輸送効率を高め、輸送コストの軽減に貢献します。また、G-MOSで破砕工程においてもAIを活用した最適化を図ることで、工程全体でのエネルギーコストを削減すると同時に、二酸化炭素の排出量の減少を推進することが可能となります。
ヤマサは1870年(明治3)に木材・米穀業で開業し、2020年に創業150年を迎えることができました。これまで卸売業から製造業へ転換しつつ食糧、燃料、建設資材へと時代の要請に合う業態に変化させながら、地域の暮らしに関わる事業を展開してまいりました。
現在は建設関連事業・燃料事業・食糧事業・ドライアイス事業・通販事業を営んでおり、2021年からデジタル事業を始動。デジタル事業では社内のDXに取り組んでいます。
今回、特許を取得したG-MOSは、自社の建設関連事業におけるDXが出発点となっています。DXを推進するにあたり「自社」と「社会」の両面から考えた際に、建設関連事業の中の「骨材」というテーマが最も必要性が高いと考えました。
大きくは以下の2つの理由です。
1つ目は、骨材製造は資源の枯渇が世界中で叫ばれる「戦略資源」になっています。日本も同様にその希少性が高まっています。このようなマクロな事情、関係者は知っていることですが、一般的にはほとんど知られていないのではないでしょうか?
希少性の高い資源ですから、全体工程を見直す広い視点で改善をしていきたい…。そのためには全体の数値化が必要と考えました。
2つ目は、ミクロな視点ですが、製造工程で使用する破砕機は、維持管理に年間でも大きなコストが発生しています。
設備産業なので設備の維持管理コストは必要なコストですし、稼働時間以外に設備の摩耗などを代理する数字が簡単には作れない状況で、改善の手が付けられない…。そのような現状が事業の持続可能性という視点と合致し、骨材事業全体の状況を見つめなおすことにしました。
骨材製造の様々な工程でデジタルやAIを取り入れることで、改善できるポイントを各所に見つけることができたのです。
そして今回のこの改善のプロセスをベースに開発した各種のシステムをG-MOSに集約し、特許取得に至ることができました。
また、G-MOSは様々な骨材製造ラインでの運用を想定し構築してあるため、柔軟かつマルチに設定・ご利用いただくことが可能です。
建設関連事業の中でも骨材製造という、長年オーソドックスなスタイルで運営されてきた事業を「サスティナブル」と「デジタル」という2つの視点をもって見直すことで、新たな可能性を見出すことができました。
ヤマサのデジタル事業では、今後も通常運用を続けるだけでは、見つけることが出来ない潜在的な課題を見つけ、デジタルを活用し「事業・環境・ユーザー」という3つの視点からよりよい事業へと発展させてまいります。